kenmochi laboratory

Research - 研究テーマ

「リボソーム」をキーワードに、ゼブラフィッシュを用いた疾患モデルの開発、ノンコーディングRNAの機能解析、低線量放射線の生物影響、データベースの構築などに取り組んでいます。ピペットを用いたベンチでの実験(ウェット)はもちろんコンピューターによる網羅的な情報解析(ドライ)まで幅広く行っています。オリジナリティーの高い世界に通用する研究を目指します。

1.リボソームと疾患

ヒトのリボソームは…
約80種類のタンパク質(リボソームタンパク質:RP)と4種類のRNA(リボソームRNA:rRNA)で構成される複合体です。ひとつの細胞に数十万〜数百万個あるともいわれています。リボソームは遺伝暗号の写しであるmRNAに結合し、そこに暗号をアミノ酸に変換するtRNAが次々と出入りすることで、必要なタンパク質を産生し続けています。
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リボソームが異常を起こしたら…
タンパク質の合成が正しく行われなくなると推測されます。そのため細胞は正常に機能できなくなったり、異常に増殖したり排除されたりするでしょう。その結果引き起こされる(と考えられる)疾患群は「リボソーム病」と呼ばれるようになりました。代表的な疾患は、ダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)という先天性の赤芽球形成不全症です。RPをコードする遺伝子の異常と深く関連しています。造血異常の他にも、角化不全、骨格異常、脾臓や肝臓の異常を示す疾患もリボソーム病に含まれます。最近では、がん発症との関連も明らかになりつつあります。
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なぜ様々な疾患を引き起こすのか…
まだ誰も明確な答えを見つけてはいません。そもそも、リボソームが異常な状態では生命の維持さえ難しく、疾患の原因にはなり得ないと考えられていました。しかし、1999年にDBA患者の25%でリボソームタンパク質(RP)S19遺伝子に異常があると報告されたのです。構成因子(RPやrRNA)の遺伝子に変異があると、あまねく異常が現れるという定説を覆し、RPS19遺伝子の異常は造血組織で特異的な異常を引き起こす可能性が示唆されたのです。さらに、リボソームの生合成を手助けする因子(200種類以上あります)の異常も疾患の原因となり得る例が報告されています。これらはすべて全身で発現する遺伝子であるにも関わらず、それぞれの変異に特異的な疾患を引き起こすのか、それが最大の謎なのです。
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謎の解明に、どう挑んでいくのか…
これまでにない仮説をたて個体モデルを用いて研究を進めています。長年、わたしたちはリボソームと疾患とが結びつくことを信じて研究を行ってきました。DBAの例が報告されるまではほとんど注目されなかった分野です。「リボソーム病」という新しい研究分野が確立された今、ゼブラフィッシュを用いてリボソームの新たな機能を見つけたいと考えています。体中の細胞は、それぞれの役割を果たすために、それぞれに特異的なタンパク質群を必要とします。それらタンパク質を合成するリボソームの機能は、どの細胞でも均一なのか、特異性があるのか、、、誰も取り組んだことのないテーマです。特異性があるとすれば、組織特異的な異常(疾患)がおこる機序も説明できると考えています。例えば、赤芽球の分化に必要なタンパク質が合成される際、RPS19がリボソーム内で重要な役割を果たしているとすると、RPS19の異常によって赤芽球が減少し貧血になってしまう、というように。

日々の実験は…
伝統的なリボソームの解析法から最新のゲノム編集技術、定番の分子生物学的手法を様々用いて行っています。小さな規模の研究室ですが、いろいろな大学との共同研究を通して、オリジナリティの高い結果をだすことを目標としています。キーワードは、遺伝子ノックダウン、CRISPR/Cas システム、次世代シーケンス、ポリソーム解析、RNA修飾解析、バイオインフォマティクス、、、などなど。ゼブラフィッシュたちと日々コミュニケーションをとることも大切な仕事の一つです。
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新しい試み…ドラッグスクリーニング
疾患の発症機序を研究することは、生物の仕組みを明らかにすることでもあります。生命という不思議な現象を研究対象にしている、という感覚です。一方で、もっと患者さんに近いところで研究を進めることも大事だと考えます。そこで新たに、ゼブラフィッシュを用いたドラッグスクリーニングをはじめました。赤血球が少ないゼブラフィッシュ胚(DBAモデル)を、様々な化合物溶液中で培養し、貧血症状が回復するかどうかを解析します。個体を用いてスクリーニングを行う利点は、赤血球産生能への影響と副作用の有無を同時に評価できることです。「創薬」は簡単なことではありませんが、やりがいのあるテーマです。

2.RNA修飾の役割

タンパク質をコードしないノンコーディングRNA(ncRNA)が多数発見され、これらRNAの働きに大きな関心が寄せられています。リボソームRNAやtRNAをはじめとし、最近では小分子RNAの修飾も同定され、RNA修飾がRNAの機能発現に必須の機構である可能性があります。しかし、RNA修飾の役割について解析はほとんど行われていません。DNAのメチル化などエピジェネティックな変化と同様に、RNAの修飾も生体機能の調節に重要な役割を果たしていると考えています。

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私達はRNA修飾の機能と疾患との関わりに注目して、系統的な解析を進めています。特に、リボソームRNAの修飾に関わる低分子RNA(snoRNA)に着目して、snoRNAデータベースの作製、ゼブラフィッシュを用いた修飾欠損モデルの作製・解析など、ゲノム科学および分子遺伝学的な手法を用いて研究を進めています。まだまだ未開拓な領域ですが、大きな可能性を秘めたチャレンジングな課題であると考えています。

3.低線量放射線の生体影響

福島の原発事故を契機に放射線の人体への影響に大きな関心が寄せられています。しかし、低線量放射線の人体影響に関する研究はきわめて限られており、特に胎児や小児への影響に関して長期的な観察が必要であり基礎的なデータも少ないことから、住民に過剰な不安を与えています。

私達は、低線量放射線を照射したゼブラフィッシュをモデルとして用い、1)生体影響をトランスクリプトームレベルで明らかにする、2)生体影響を抑制する物質を化合物ライブラリーからスクリーニングする。ことを目指して解析を進めています。この研究により、人々の放射線に対する不安を少しでも和らげることができたらと考えています。

4.リボソームタンパク質遺伝子およびsnoRNA遺伝子データベースの構築

リボソームを構成する成分は全ての生物に共通して存在しており、また、他種生物間において高く保存されています。私達はこの特徴に着目し、これまでに様々な研究を行なってきました。主たるテーマとして、リボソーム病の機序の解明を目指しています。また、インフォマティクスを用いてRP遺伝子の塩基配列のパターンを抽出することにより、協調的な発現を制御する機構の解析、さらには、生物進化の過程におけるイントロンの獲得と消失の推測を行い、研究成果を報告してきました。これらの解析の基盤となってきたのが、RP遺伝子データベース(RPG)small nucleolar RNAデータベース(snOPY)です。タンパク質合成は、遺伝情報の発現の過程であり生命現象の礎とも言える重要な現象にも関わらず、RPに関するデータベースはRPGが世界に唯一です。

また一方、snoRNAは、rRNAなどnon-coding RNAの修飾をガイドする核小体の低分子RNAの総称であり、その遺伝子の構成は一概に説明できないほど複雑です。例えば、シロイヌナズナで見つかっているsnoRNA遺伝子は、その約8割がゲノム上でクラスターを構成していますが、逆に、出芽酵母では約8割が単独で存在しています。さらには、ヒトなど脊椎動物においては、イントロン内在型snoRNAが多数見つかっています。これらは、RP遺伝子などのイントロンの中にsnoRNAがコードされており、mRNA前駆体からスプライシングを経て発現することが知られています。多種生物におけるsnoRNA遺伝子はこのような特殊な構成であるため、オルソログに関するデータベースを構築する際には、機械的に情報の整備を行うことは不可能でした。私たちは、知識と経験のある者による確認により、snOPYデータベースを構築しました。
 近年、リボソームによる翻訳調節機構の存在が示唆され、その破綻とリボソーム病との関連に大きな注目が集まっています。本研究室のデータベースは、リボソームの多彩な機能を解析するために必須のツールになることが期待されています。